与えられる人

つい先日、馬車道へ訪れる機会があった。

地下鉄の駅から地上に出た瞬間感じたのは、ほのかな海の香りだ。

横浜港が開港した頃、外国人が馬車で盛んに往来するエリアであったことから「馬車道」と名付けられたこの街には、レンガ造りの歴史的商館がところどころ残っている。

それらの建造物は、遠目にもただならぬ存在感があり、文明開化へと向かう激動の時代の息吹を、今なお宿しているように感じられた。

本来ならゆっくりと散策したいところだが、楽しみにしていた約束があり道を急いだ。


この日訪れたのは「馬車道十番館」。

雑多なビルの合間に忽然と現れたその建物は、西洋風の窓枠が目を引く赤いレンガ造りのレストランだった。

明治時代の建築様式を参考に、昭和42年に建てられたものだという。

建物の前には、映画のセットさながら、レトロな街灯や、公衆電話、曲線のベンチが置かれ、一瞬にしてタイムトリップした気分だ。


お店に入るとそこに見えたのは喫茶室だった。

そこに並ぶ赤いアンティークの椅子を横目に、3階のレストランへ上がり予約席に通していただいた。

そわそわと待っていると、ほどなくして現れたのは小林菜穂美さんだ。

お付き合いは、もう3年ほどになるだろうか。

小林さんは、企業の秘書・広報・バックオフィス業務などを外部受託するアシスティアという組織の代表で、仕事や起業全般に関するご相談で、ずっとお世話になっている方だ。

穏やかなお人柄と丁寧な仕事ぶりで、引く手あまたにもかかわらず、ランチをお誘いしたところ二つ返事で応じてくださった。

ちなみに今回のレストランは、生まれも育ちも横浜という小林さんが提案してくださったお店である。

育った環境は人に影響を与えるようで、小林さんもこの街のようにクラシカルで上質な華やかさのある方だと思った。


元々、近況報告ということでお約束をいただいていたが、種々の情報交換をし、おしゃべりに興じ、食事に舌鼓を打つ、とても贅沢な時間となった。

最近つくづく思うのは「会って、話す」というコミュニケーションが、いかに大事かということだ。

スマホ片手に生きていると、日々効率よく情報を得て、人生の時間を無駄なく使えているかのように錯覚するけれど、実際のところ、そこで受け取ったものが、私の日々に本当の意味で寄与しているかは、甚だ疑問だ。

オンラインはきっかけぐらいに留めて、自分の体で感じることや、会いたい人と会う時間をより意識的に作っていきたいものである。

図らずもこの日1日で私はいろんなことが解決し、前に進む力をたくさんいただいた。

人から人へ手渡される情報が、何よりも人を豊かにしてくれる。

お相手にとってもそうであると良いが、業界の先駆者として10年以上今の事業を続けている小林さんからは、どうしたって与えられるばかりだ。

さらにこの日は、私の法人設立のお祝いとして、素晴らしい贈り物まで頂戴してしまった。

実はそれはずっと探していたものだったので、包みを開いた瞬間本当に驚いた。

そういうものを察して、ここぞとばかりに贈ってくださるセンスには脱帽するばかりである。

この空間すらそのアイテムを引き立てるための舞台のように思えてきた。

もちろん、そのような感性をお持ちだからこそ、人に伴走するお仕事が長く務まるのだろう。

このような方と人生で出会えた幸運を思い、私もまた与えられる人になりたいと希望を抱く1日となった。

頂いた贈り物は、もう少し私に馴染んだ頃に、心をこめて紹介することにしたい。

かまくらのおと
白河晃子

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