「暮らしに、人生に、こんなにもこだわり抜いて生きた人がいたなんて。」
- 2022-02-23
- ひとのおと
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少しずつ春めいてきた2月の平日。
東京は鶴川(町田市)へ訪れました。
目的は、白洲正子さん、次郎さんご夫妻の邸宅
「武相荘」
を訪れること。
当時の趣そのままに、一般公開されている、
ということを知って、早数ヶ月。
同じく興味を持っていた大磯さんと、
少し前に、ようやく具体的な計画を立て、
この日がやってきました。
白洲正子さんは、
言わずと知れた随筆家であり、
ご主人の白洲次郎さんは、
吉田茂氏の側近であり、実業家。
そんなご夫妻が愛し育てた「武相荘」は、
言葉では表現しがたい、圧倒的な美しさでした。
そよそよと風と戯れる竹林の中に
忽然と現れる古い日本家屋。
お庭には、この時期ならではの、満開の紅桃。
藁葺きの屋根に、年季の入った柱と縁側。
見る人に何かを語りかけてくるような
調度品、骨董、お着物の数々。
そして、お二人が残した言葉。
本でも予習をしていたのですが
実際のそれは、写真で見る比ではなく、
自然と、家と、もの、
そして、ご夫妻の気配が
見事なまでに調和しているのです。
(室内は撮影禁止なので、お外のお写真を。)
はぁ、暮らしに、人生に、
こんなにもこだわり抜いて生きた人がいたなんて。
ご夫妻の生き様に、しかと触れ、
込み上げてくるものがありました。
日々の暮らしに
手をかけることを楽しみ、
それらが育ち、
調和していくことを気長にまち、
人生を慈しむ。
そんな感覚を、
強く惹起させられたように思います。
(次郎さん手作りの郵便受け。独特のセンスです。)
一方、白洲ご夫妻のこだわりには、
際立ったものがありますが、
私の祖父母世代、あるいは、
それ以前の日本人は、
程度の差こそあれ、
当然に持ち得た感覚なのかもしれないな、とも思いました。
例えば、私の祖母も、
庭の草花の手入れを
日々の至極の楽しみとしていましたし、
気に入ったものを、
少しずつ買い集めるということも
よくしていました。
また、衣類や小物に裁縫を施し、
自分仕様に仕立て直す、
ということも、
当たり前のようにする人でしたから。
「自然」にも「もの」にも、
手をかけることそのものを、
楽しんでいたのだろうなと思います。
翻って、自分自身の生活を、見てみますと、、、
手間がかからず、無駄がなく、
便利で、汎用化されたものが、
少なくないかもしれない、と、思いました。
そういうものが、簡単に手に入る時代、ですからね。
ただ、そんな生活に、
物足りなくなっている自分がいることも確か。
だからこそ、「武相荘」に訪れたのかもしれません。
ここで得た感覚を大事にしたいと、強く思いました。
話を戻しますと、
武相荘は、とにかく、どこをみても
本当に素晴らしい空間だったのですが、
中でも、特に感動したのは
正子さんの「書斎」でした。
そのお部屋は三方、
おびただしい蔵書に囲まれているのですが、
机の向かう壁にだけ大きな窓が。
その窓は、外の美しい緑を切り取った
一枚の絵のようでした。
机の上に差し込む光は、
キラキラと揺れ、影を作り、
今なおそこに、ふっと本人が現れ、
ものを書き出しそうな気配を漂わせているのです。
この空間から、
数々の名著が生み出されたと思うと、
鳥肌が止まりませんでした。
お昼は、敷地内にある
レストランでいただくことに。
お店の方がお勧めしてくださった
次郎さんのレシピで作られたカレーは、
食器や配膳の仕方も、
実際になさっていたものを
忠実に再現しているようです。
お味もとっても美味しかった。
(次郎さんは、カレーの「食べ方」にまでこだわりがあるそうで、その詳細は、メニューに書かれていました)
(くるみとキャラメルのタルト。居心地が良すぎて、離れ難いレストランでした)
最後に立ち寄ったのは、
ミュージアムショップ。
こちらも、とてもユニークで、
ご夫妻が愛用していた骨董を倣した
花瓶やお茶碗、お湯呑みなどが、扱われていました。
せっかくなので、一輪挿しを購入。
(お花を飾っていないと何だか分かりませんが、一輪挿しです♡)
実は、こちらの作品は、
白洲夫妻の長女の旦那様
牧山圭男さんが作られたもの。
作品の脇に添えられた作者のお名前から、
もしかするとそうかもしれない、と思いつつ、
確信を持てずに、手にしていたのですが、
なんと、当のご本人が、その場にいらしたのです。
お店の方にしては貫禄がおありで、
ダンディな方がいらっしゃるなぁと思っていたら、
「これ、実は、私が、作ったんです」
とお話ししてくださりました。
牧山さんは、陶芸作家であり、
武相荘の館長さんでもあるようです。
ちょうどお店の2階で、
商談をされていた合間のようで、
「是非、また、来てください」
とおっしゃって、去っていかれました。
(正子さんが愛用していたというお香も、ミュージアムショップで購入しました)
後ろ髪を引かれながら、「武相荘」を後に。
まだまだ、余韻に浸っていたくて、
駅近くのお花屋さんで、桃の花を購入して帰りました。
私の暮らしも、少しずつ、手を入れていこう。
圧倒的に美しいものに触れ、
一つ扉が開いたような気がします。
かまくらのおと
白河 晃子
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