「ラッキーなんてものはない」〜写真家・大竹英洋さんのトークイベントにて〜

外の風が一段と冷たくなりました。
道の隅に積もった金木犀の小さな花は、穏やかな日差しに照らされています。

イチョウの葉はいつの間に色づいたのでしょう。
静かに季節が進んでいく。
ただそれだけのことで胸がいっぱいになる秋です。


週末は家族で写真家・大竹英洋さんの写真展とトークイベントに伺いました。

ALASKA -星野道夫の足跡を辿って- 」と題された写真展

今年の2月NHKで放送された「アラスカの光と風 -星野道夫×大竹英洋 時を超える旅-」の中で、大竹さんがアラスカで撮影された写真が展示されています。

トークイベントでは、番組制作の背景や撮影の舞台裏を伺うことができました。

とてもお話の上手な方で、穏やかな語り口に身を委ねているうちに、どんどんその世界に引き込まれていきました。

カリブーの大移動に始まり、南東アラスカのザトウクジラ、ハイダ族の神話の世界へ。

プロジェクタに映し出された写真と動画から、アラスカの大自然と何千年にわたる極北の地の営みが迫ってくるように感じられました。

(写真展は品川のキャノンギャラリーにて11/21(火)まで開催されているようです)


大竹さんは番組の取材を通して、星野さんのエッセイに登場する人物にも出会ったようです。

星野さんのエッセイはほとんど読んでいますが、それでも知ることのできないエピソードに触れることができ、胸に迫るものがありました。

中でも心に残ったのが、星野さんが生前親交のあったアラスカのブッシュパイロット ドン・ロスさんを訪れた際の話です。

大竹さん率いる撮影チームは、短い撮影期間の間に、奇跡的にカリブーの大移動に立ち会うことができ、そのことをドンさんに報告に向かわれた。そして「非常にラッキーだった」と伝えられたそうです。

それに対して、ドンさんからはこんな言葉が返ってきたそうです。

「ラッキーなんてものは存在しない。見えないところで全部つながっているのだから」と。

私は星野さんが惹かれ続けたアラスカの人たちの心に触れたような気がして、体が熱くなりました。

大竹さんと番組制作チームが、今回奇跡的なシーンに立ち会うことができたのは、決して偶然ではなく、星野さんや見えないところで働いている力があったおかげだ、ということなのでしょう。

見えないものを想像できる人々の豊かさと強さを思いました。

大竹さんはドンさんの言葉を受け、ラッキーという言葉を軽々しく使ってはいけないと思われたそうです。

その感性にも、また強く惹かれるものがありました。

(大竹英洋さん20年の集大成であり、初の作品集だそうです)


大竹さんのことは今回の写真展を通して初めて知ったのですが、20年間カナダのノースウッズと言うエリアで撮り溜めてきた作品集は見事なものでした。

フレームに収まっている被写体そのものではなく、そこにある物語や自然の広がりが感じられるからだと思います。

普段の生活とは違うフィールドで、大きな時間の流れを感じながら生きている人の表現には
不思議な説得力があり、つい引き込まれてしまう。

寒いのは苦手だけど、いつかこの目で見ることができたらなと思わずにいられません。

写真展は11月21日まで。品川のキャノンSタワーで開催されているそうです。



かまくらのおと
白河 晃子

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