夏の花巻にて

八月も後半に入りました。
暑い日が続きますが
朝夕の風には秋の気配が感じられます。

もう夏は十分だと思っていたのに
終わってしまうと思うと
急に寂しく感じられるのが不思議です。

次の季節への移ろいを感じながら
残暑を乗り切りたいものです。

(花巻の畦道)


先日、友人二人とともに
2泊3日で花巻を訪れました。

友人のうちの一人が花巻出身で
以前から話は聞いていたのですが
なかなか足を運ぶ機会がなく
そんな折、夏に帰省するというので
その合間にお邪魔させてもらったのです。

初めての花巻。
いや、よく考えると
岩手の滞在そのものが初めてでした。

到着した日は、夏の甲子園の真っ只中。

地元の強豪・花巻東高校が
2回戦を勝ち進んだ日で
駅やホテルやコンビニなど
至るところで応援の張り紙が目に留まりました。

街をあげて盛り上がっている様子は
大都市では見られない光景かもしれません。

花巻といえば
一にも二にも「宮沢賢治」のようです。

店や商品の名前には
「イーハトーブ」や「山猫軒」など
作品に由来する言葉が付けられていることが印象的でした。

賢治ゆかりの地や
たくさんの人で賑わう記念館にも訪れました。

記念館の敷地にあるレストラン兼お土産屋「山猫軒」)


名前や作品こそ、教科書を通して
小さな時から知っていましたが
文学や創造の世界において
どれほど大きな存在なのかを
初めて実感したように思います。

花巻は温泉が有名と知り
夜は温泉旅館に泊まりました。

とろりとした泉質で
美肌効果も高いとのこと。
欲張って夜も朝も入りました。

少しぬるめのお湯に
酷暑の疲れが一掃され
心身が軽くなったように思います。

花巻に滞在している間
夏休み中の子どもたちは
夫に面倒を見てもらっており
最高の息抜きになりました。

(宿泊したのは老舗温泉旅館「優香苑」。宮大工の建築も見事。山に囲まれた秘境でした)


あっという間に過ぎた3日間。
何よりも心に残ったのは
花巻の何気ない自然の景色かもしれません。

鎌倉も都内に比べれば
十分自然豊かなのでしょうが
花巻のそれはスケールが違います。

山と緑の他には何もありません。
車もない、人もいない。

その風景にたたずんでいると
世界に存在するのは
私だけのような気さえするほどです。

けれど、 季節のおかげでしょうか。
寂しさはありません。

明け方に降った雨も手伝って
大きな何かに溶け込んでいくような
安心が感じられました。


鳥の声に小さな野花。
風が運ぶ草木の香り。
空に浮かぶ真っ白な綿雲。

つかめそうで
つかめないものが
通り過ぎて行くとき。

普段の生活の中で
たくさんのものを見て
たくさんのことを知っているような
気になってしまうけれど
本当にそうだろうかと
問われる思いがしました。

夏の日差しを受けて
浮かび上がる強い影は
次の瞬間、光に消えていきます。

私たちが本当に知りたいことの
答えはどこにあるのか。

花巻の何気ない自然の景色は
心が求めているけれど
見つけられずにいるものに
つながっているような気がしました。

これから迎える秋、そして、冬。
寒さが厳しいこの地の景色は
どのように変化していくのでしょう。

日常に戻ってなお
心で思う場所が増えていくということが
人生を豊かにしてくれるのかもしれません。
またいつか訪れる日を楽しみにしています。


かまくらのおと
白河 晃子

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