さようなら、おばあちゃん。

雨の季節に
祖母はひとり
静かに旅立っていきました。

94歳。
大往生です。

40年近く一緒に生きて来られた。
それだけで恵まれたことだと知っています。

それでも寂しい。
虚しいです。

祖母の笑顔がもう見れない。
声が聞けない。
触れない。

細い息でもいいの。

この世界に生きているということが
どんなに希望だったか知らされました。

大きな病気をすることも
認知症になることもなく
最後まで健康が自慢の祖母でしたが
この二年は気力の衰えが目立つようになっていました。

会うたびに小さくなっていくその背中。

「こうして会えるのは、今日が最後かもしれない」

何度思ったことでしょう。

思ったところで
どこまで覚悟ができていたのか
わかりません。


施設は嫌だと、ぎりぎりまで一人暮らしを貫いた祖母でしたが、
最後の半年間は父の提案に観念し、近所のケアホームにお世話になっていました。

ベッドと車いすが大半のスペースを占領する個室で、どんなことを思っていたのかな。

最後に会ったのは五月の後半です。

「おばあちゃん、さようなら。またね」

お部屋を離れようとしたとき、
ふいに呼び止められたような気がして、もう一度顔を近づけました。

小さな小さな声で祖母は言いました。

「ありがとう」

父から訃報を受けたのは、それから二週間後のこと。


昨日、最後のお別れに行ってきました。

きれいで安らかなお顔でした。

「あっこちゃん」と呼びかけてくる声が、今にも聞こえてくるようです。

繰り返し聞いた昔の話が、次々に蘇ってきます。

こんなにも私の中に祖母がいたのかと、思いが溢れて心が壊れそうです。

0歳から5歳まで、忙しい父と母に代わって私を育ててくれたのは、祖母でした。

両親が離婚した後も、毎年長い休みには、祖母の家に長期滞在するのが恒例でした。

映画やミュージカルを一緒に観にゆき、料理を教えてくれました。
甘いものが大好きで、女友達みたいに恋の話もいっぱいしたね。

社会人になり仕事が苦しかった時は、祖母の一言にどれだけ救われたことか。

おかげでわたしは
今日を生きることができています。

ありがとう。

おじいちゃんには会えましたか。
兄弟姉妹、ご両親には会えましたか。

ひとり長く生きるのもつらいよ、と言っていた祖母が
笑顔を取り戻していたら嬉しい。

これからも見守っていてください。

さようなら、おばあちゃん。



かまくらのおと
白河 晃子

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