「事足りる、では、もの足りない」

南青山のギャラリーで出会った
美しいマグカップを購入した。
 
マグカップなるものを買ったのは、何年ぶりだろうか。

我が家の食器棚には、
結婚当初に買ったARABIAのマグカップと、
銀行を退職したときに同僚からいただいたマリメッコのマグカップがあり、
それを、長らく、多用してきた。

どちらも丈夫なので、
(多少雑に扱っても)壊れることがなく、
十分に事足りていたのだが、
そろそろ、もう少し良いものが欲しいなと、思っていた。

良いもの、というのは、
大切に扱いたい、愛でていたい、
という思いが自然と生じるような、
美しさと繊細さのあるもので、
使うたびに、心の動きや豊かさを感じさせてくれるもの。

マグカップに限った話ではないが、
日々使う「もの」に関しては、
事足りるだけでは、全くもの足りない
年齢に差し掛かっていることに、気づき始めていた。

そんなときに、予期せず出会ったのが、こちらのマグカップだ。
 


 
焼き物でありながら、ブルーとグリーンの透き通るような優しい色彩。
 
海のようにも見えるし、空のようにも見える。
その涼しげなグラデーションに、思わず足が止まったのだ。

ぽってりとした丸いフォルムと
ふちに近づくあたりの細やかな曲線が、なんとも美しい。

手に取ってみると、表面は驚くほど滑らかで、
少しひんやりと、でも、優しい肌触りだった。

内側をのぞくと、マグカップの底には、
グリーンの中で発光する白い色が見え、
小さな斑点となって散っていく。

曜変天目茶碗ではないが、
作家の意図に、偶発的な要素が加わって、
できあがったであろうその絵柄は、
果てしなく広がる宇宙を想起させ、
私の手のひらを、ワクワクさせた。
 
いったいどのように作っているのだろうか。
 


  
作家さんのお名前を見ると、
大阪・富田林の陶芸作家 岩崎龍二さんの作品という。
 
富田林、という地名に聞き覚えがあった。
確か、私の曽祖母と所縁の深い場所だ。
 
そんなことにもご縁を感じつつ、

「このマグカップでコーヒーをいただいたら、どんなに美味しいだろう」

と想像したら、連れて帰らずにはいられなかった。
 
せっかくなので二つ購入し、ペアにすることにした。
 
夫の趣味かどうかは全く不明であるが、
妻が、ご機嫌にコーヒーを飲んでいることは、
日々の暮らしにおいて、重要な事がらに違いない。




  
今回訪れたギャラリーは、
南青山にある「丸山邸 MAISON de MARUYAMA」
  
6/16(木)から6/19(日)まで『美しい仕事展』が開催されています。

陶器以外にも、硝子、切子、木工、刺繍など
全国の作家さんの作品が展示されていて、骨董も扱われていました。

美しい仕事は、一瞬で、人をときめかせる。

ギャラリーを巡っているだけでも、楽しいひとときでした。


かまくらのおと
白河 晃子

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