鎌倉長谷Atelier & Gallery 一凛「近代文学 & 一花一葉講座」へ

12月の鎌倉は紅葉シーズン真っ只中です。
厳しい寒さもどこ吹く風。週末ともなれば、カメラを持つ人や観光客で一層賑わっているように思います。

昨日はそんな人混みに紛れて江ノ電に乗り、鎌倉から長谷へ訪れました。

向かったのは稲垣真由美さんが運営されるAtelier & Gallery 一凛です。

長谷駅から徒歩1〜2分。線路脇の小道を抜けた先に、その建物は現れます。


一凛さんは近代文学の初版本を完全復刻した
日本近代文学館の「名著復刻版シリーズ」を所蔵されており、
アートと文学を組み合わせたオリジナル講座を定期的に開催されているとのこと。

昨日はまさに講座に参加するため、アトリエを訪れました。

稲垣さんがナビゲートされる講座は、
大人の好奇心を刺激するひとときであり、リトリートであり、お茶会であり…
ひとことで言い表せない特別な時間のように思います。

一凛さんに伺うのはこれで三度目ですが、
何度見ても圧倒されるのは、復刻版が並べられた本棚です。


今回のテーマは、それらの本から選ばれた一冊
宮沢賢治の代表作「注文の多い料理店」でした。

私が初めて読んだのは、教科書だったか絵本だったか覚えがありませんが、
山奥の料理店を訪れた人がその主に食べられそうになる、なんて恐ろしい話だと感じたことを思い出しました。

けれど、大人になって読み直してみるというのは面白いものです。

作品が書かれた時代や
作者の置かれた環境を知り、
子どもの頃には見えなかった作品の面白さを発見することになりました。

また、初版本の装丁に直に触れ、
言葉にならない思いを抱きました。

この本は今でいう「自費出版」だったそうです。

しかしながら、表紙は深い紺色の厚手の紙に、題名は金の箔押し。

中を開いてもなお、どこまで凝っているのだろうと思わずにいられない素材や方法でつくられています。

挿絵や印刷は、作者の生まれ故郷・岩手の方々が手がけられており、人や地域への温かい思いが伝わってきました。


特に心に響いたのは、この本の前書きです。
そもそも序章があるということを私は知りませんでした。

それはもはや言葉ではなく、オルゴールの音色のようでした。

一体どうしたら、このような輝きに満ち溢れた言葉を生み出せるのでしょう。


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わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗らしやや、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。

わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、にじや月あかりからもらつてきたのです。
 
ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
 
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。

大正十二年十二月二十日
宮沢賢治

青空文庫さんのHPより引用しました)

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38歳という短命でこの世を去った宮沢賢治ですが、情に厚く、理想を生き抜いた人だったのではないかと思います。

今、私はその年齢とほぼ同じ歳。

一凛さんの講座は、文学を評価したり語り合うものでは決してないのですが、
目の前にあるたった1冊の本を通して、人の生き様を真っ直ぐに見せられたような気がします。

私はどう生きたいのか。

大きな問いを持ち帰ることになりました。


かまくらのおと
白河晃子

文学講座の後に、生け花体験も♡
アオモジと葉牡丹の組み合わせ。

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