クルミッ子と切り落とし

鎌倉には様々な銘菓やスイーツがある。

老舗の菓子店もあれば
新しいお店もどんどん出てくるので
開拓に飽きることはない。

しかしながら
またリピートしたいという商品は
そんなに多くないように思う。

実際、私が何度も購入する商品は
片手ほどもないのではないだろうか・・・

そんな数少ないうちの一つ。

鎌倉銘菓の代表的存在であり
手土産でお渡ししたときに
誰もが口を揃えて、美味しい!と感動するのが

クルミッ子」だ。

ご存知の方も多いと思うが
鎌倉紅屋さんの定番人気商品である。


クルミの詰まったキャラメルを
しっとりしたクッキー生地で挟んだもので
ほろ苦い大人の甘さと優しい食感に
多くの人がやみつきになる。

5センチほどの小ぶりな大きさや
お店のシンボルのリスのイラストも可愛い。

無論、私も大好きなお菓子である。

個人的にはバニラアイスと組み合わせていただくのがおすすめだ。
極上スイーツへと昇華する。

ちなみになぜリスかというと
くるみがリスの好物であることと、
鎌倉にリスが多いことが関係しているようだ。


(実際、鎌倉では至るろことでリスを見かける)


ところが、そんなクルミッ子が最近手に入らない。

鎌倉に人が戻ってきたのだ。

私がよく訪れる八幡宮前本店
平日の午前中もお店の前に列ができている。

そして、お昼前には
主要商品がほぼ売りきれてしまう。

お店の人によると
開店からほぼ2時間だそうだ。

先日は開店前を狙って訪れたが
すでに15名ほどの人が並んでいた。

開店後、列が動き出しても
人数制限がありしばらく待つことになるという。

そもそも列に並ぶことが嫌いな上に
次の予定があったので早々に諦めた。

本店以外にもお店はあるのだけれど、状況はほぼ同じ。

午前中に軒並み売り切れになってしまうそうだ。

オンラインショップも覗いてみたが
ここしばらくは「入荷待ち」という有り様だ。

つい数ヶ月前までは、いつ行っても
欲しい商品を手にすることができたのにな・・・

しかしながら、売れるからといって量産に走らないのがこのお店のいいところであるし、
さらにいえば、混んでいるからといって販売員さんの丁寧な(ゆっくりな)接客が変わらないところもいい。

鎌倉なんだからのんびりしなさい、と諭されているようである。

かくしてクルミッ子が手に入らなかった日には
「残念・・・次こそは」という思いを抱くことになる。

鎌倉紅屋さんのクオリティあってのことだが、なんと周到な作戦だろう。

私なんぞは、まんまとクルミッ子への思いを募らせる羽目になる。

(鎌倉紅屋本店は八幡様の目と鼻の先)


そんなことで、ここしばらく
クルミッ子から遠ざかっていたのだけれど
不意に手にする機会が訪れた。

少し前の日曜日。

鎌倉の中心から少し離れた
鎌倉紅屋「湘南深沢店」に夫が連れて行ってくれたのだ。

長谷と藤沢をつなぐ国道沿いにあるこのお店は
車がないと訪れるのが難しい。

駐車が苦手な私は、わざわざ出向くことを選ばなかったお店なのだ。


到着したのは午前10時半ごろだったと思う。

不便な立地にもかかわらず
駐車場への車の出入りや
人の往来は絶え間なく続いていた。

しかしながら列はできておらず
店舗内にはゆとりがある。

主要な商品もまだ揃っていたので
お目当てのクルミッ子を
久しぶりに手にすることができた。

う、嬉しい・・・!

このコラムをご覧になっている方で
クルミっ子を確実に手に入れたい場合は
こちらのお店に午前中に訪れるのがおすすめである。

このお店では、もう一つ嬉しい出来事があった。

それは・・・

「切り落とし」に出会えたことである。

切り落としとは、クルミッ子の製造時に出る「切れ端」を袋詰めにしたもの。

販売店舗が限定されている上
オンラインショップでも即完売となる裏メニュー的商品だ。


噂には聞いていたものの
実際に手にするのは初めてだった。

一袋にぎゅっと詰められたそれは
かなりの重みがあった。

にもかかわらず
約1000円というお手頃な値段設定だ。

人気のはずである。

ひとり3袋までという制限のおかげか
まだ潤沢に在庫があるように見えた。

通常のクルミッ子と切り落としを購入し
紅色の紙袋を手にルンルンと家路についた。

いつもと違うパターンで出かけてみるものだ。


切り落としの袋には
クルミッ子と同じサイズに切られたものと
そうでないものが混在していた。

切られていないものは15cm程の棒状で
まさに、切り落とし、という感じがする。

実際にいただいてみると
「切り落とし」と「クルミッ子」は
似て非なるものだと思った。

どちらも美味しいが
切り落としは上下の生地の割合が多いため
サクサクした食感を楽しむことができる。

小分けに包装されていないこともあり
つい手が止まらなくなる。要注意だ。

一方、クルミッ子は
上下の生地に対してキャラメル部分が多いため
全体的にしっとりとした質感で、
ほろ苦く濃厚な味わいが口に広がる。

鎌倉紅屋はもともと
東京神楽坂の名店であった
和菓子舗紅谷の腕利きの職人が
戦後その看板を背負って
鎌倉にスタートしたお店だというから

クルミっ子の独特の味わいは
職人の試行錯誤の末にたどり着いた
最もバランスのよい配分に違いない。

ちょっとの差で全く異なる質感・味わいを楽しめるクルミッ子と切り落とし。

ますますファンになってしまいそうだ。




かまくらのおと
白河 晃子



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