糊こぼし

今年は必ず取り寄せようと
心待ちにしていたものが届いた。

奈良萬々堂さんの
糊こぼしである。

萬々堂通則 HP
https://www.manmando.co.jp/

昨年2月に石川真理子先生が投稿された
可愛らしい写真が心に残っていた。

また、昨年11月には長男と
東大寺に訪れたということもあり
この2月は必ずやと思っていたのだ。

もちろん、食欲の執念でもある。

届いたものを早速開けてみる。

可愛い。

まず箱が可愛い。


この化粧箱のために、毎年、買い求めても良いのではないかと思うほどだ。

そして、念願の糊こぼしだ。

紅白の大胆な色使いに驚かされるが
見れば見るほど丁寧な手仕事が思われ、
見入ってしまう。

練り切りはどれも造形が美しいが
糊こぼしはまた格別のようだ。

赤と白の椿の花びらは照りが美しく
内側の黄味餡には
筒シベを表した点々がほどこされている。


見栄えを惜しんでいる間に
ふと横を見ると
隣に座っていた長男は
さっそく口に運んでいるではないか。

「おいしいっ!」
と、顔をほころばせる。

私のうんちくには耳も傾けず
あっという間に小さくなるそれを見ながら
最後の数口を名残惜しそうに味わっていた。

私もさっそくいただいてみる。

優しい甘みが広がった。

と思ったら、すーっと口中で溶けていってしまった。

あぁ美味しい。

これが糊こぼしか。

箱の中には解説が添えられていた。


東大寺二月堂にて毎年3月に行われる
行事「お水取り(修二会)」の際に
須弥壇の四隅を飾る椿の造花があり
それを形どったのが
この生菓子「糊こぼし」なのだそうだ。

お水取りは、天平勝宝4年(752年)から始まり
1200年以上途絶えることなく守り続けられている行事。

そして萬々堂さんは江戸後期の創業というから
300年近くこのお菓子を作っているのかもしれない。

そんな由緒あるお菓子が
取り寄せという
便利なシステムに乗ってやってきた。

ありがたいことである。

本来奈良まで運ばないと
知り得ない季節の楽しみを
こうして鎌倉で堪能することができるのだから。

しかし、たくさんの人が守ってきた伝統が
こうして私の元に届いたというのは
なんだかとても不思議な思いがする。

お菓子を美味しくいただいた
というだけなのに
誰かと、何かと、つながったような気がするのだ。

「あぁまた春がきたなぁ」と
平安を喜び、願ってきた人々の想いが
時空を超えて伝わってきているのだろうか。

私の母方は奈良にゆかりがあるので
単純に先祖が喜んでいるような気もする。

こうしてコラムに書き
誰かに伝えたいという衝動も湧いてくるからおかしなものだ。

何かの采配なのかもしれないと、ふと思う。

ちなみに、椿をかたどった和菓子は
萬々堂さんだけでなく他にも何軒かあるそうだ。

この時期限定というのは、どのお店も同じよう。

取り寄せができるお店ばかりでもないので
今後2月の奈良に訪れる機会があれば食べ比べをしてみたい。

結局、甘いものに目がないだけである。


かまくらのおと
白河 晃子

昨年11月に訪れた東大寺。

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