活気を取り戻す鎌倉の街角で

今小路(いまこうじ)の紫陽花が咲いた。

というと大そうな名所に聞こえるが、そうではない。
鎌倉の道沿いのアパートに咲く、ごく普通の紫陽花である。私が名付けた。

ちなみに今小路は、鎌倉駅西口の紀伊國屋から北条政子の墓所で有名な寿福寺に続いていく道だ。

鎌倉には紫陽花で有名なスポットがたくさんある。
北鎌倉の「明月院」、長谷の「長谷寺」、極楽寺の「成就院」が有名だ。
梅雨が訪れると間もなくカメラを抱えた人たちでごった返すだろう。


しかし毎年真っ先に私に次の季節を知らせてくれるのは、なんの変哲もないこの紫陽花だ。

アパートの柵を乗り越え、押し合いへし合い咲いている様子が、なんとも愛らしい。


通常紫陽花は低い位置に咲いていることが多いと思うが、この紫陽花は頭より高いところに咲いている。なので自然と見上げる格好になる。
上を向くという動作に、晴れ晴れとした気持ちになるのは私だけだろうか。

空に溶け込んでいきそうなブルーは、足元よりも天に近い方が輝きを増すように見える。
梅雨が楽しみになる。


鎌倉に観光客が増えてきた。いや、増えてきたなんてものじゃない。大混雑だ。

コロナ前に戻っただけといえばそうなのかもしれない。
ゴールデンウィークは4年ぶりに人が動けないほどの大混雑に見舞われたそうだ。

そうだ、と言ったのは、連休中はあえて鎌倉を離れていたからだ。ニュースでその様子を知った。

その混雑は今も続いていて、駅近くですれ違う人の大半が外国人観光客だったりする。
おしゃれなカフェで外国人の方が休憩していると、そこかしこから様々な国の言葉が聞こえてきて、一体ここがどこなのか分からなくなるほどだ。

もちろん鎌倉は観光で成り立っている側面も大きいので、街に賑わいが戻ってきたのは嬉しいことだ。飲食店を営む友人はホッとしたといっている。

ただ、こうも観光客が増えると、なんというか鎌倉が鎌倉のものでなくなってしまうようで、どうしても心許ない気分になるのだ。

(花が咲く準備中の紫陽花 )


そんな時に頼りになるのが、自然ではないだろうか。

今小路の紫陽花がこの時期になると必ず咲くように、春には桜が咲き秋には樹々が紅葉する。
そんな風に自然が自然のままに営みを続けていることが、私を安心させてくれる。

花だけではない。
近所のお店がいつものように開いているとか、隣の家からいつものようにピアノが聞こえるということも同じだろう。気づいたことにも気づかないほど、ささやかなことの連続が自然だと思う。

当たり前の景色が、そばにある。
当たり前の景色が、続いていく。

活気を取り戻す鎌倉の街角で、そんな当たり前に救われる気がするのは、少しだけ歳を重ねたおかげかもしれない。


かまくらのおと
白河 晃子

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