「一目惚れした香炉」
- 2022-05-06
- もののおと
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善光寺の帰りに立ち寄ったお香専門店で、
私は、ひとつの「香炉」に目を奪われていた。
ちょうど手のひらに乗るほどの大きさで、
丸みを帯びた愛らしい姿の焼き物だ。
色はグレージュと言ったらよいだろうか。
土の色味が活かされた上品な風合いで、
表面はつややかに仕上げられている。
手に持ってみると、思ったより軽い。
蓋には、花びらの形の空気孔が見え、
繊細に作られていることがわかった。
さらに、私を虜にしたのが、
その表面に、えんじの絵具で絵付けされた
「鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)」だった。
鳥獣戯画といえば、高山寺であるが、
ちょうど白洲正子の「明恵上人」を読んでいる最中で、
まさに、その地に訪れることを夢想していたのである。
胸が高鳴った。
絵に触れると、ざらっとした筆跡が感じられた。
描かれた線は、伸びやかで、迷いがなく、こなれている。
お店の方によると、京都の職人さんの手仕事であるらしい。
また、今、お店にあるものは、
蓋にまで絵付けが施された特別な仕上がりで、
最後の一点だ、という。
ただの推し文句なのかもしれないが、
見れば見るほど、気に入ってしょうがないので、買うことにした。
家には、すでにお香立てがあるし、
まさか善光寺で、香炉など買うつもりはなかったが、
それから2週間。
すっかり、私のお気に入りとなっている。
丸い香炉から、立ち上り、揺れ広がる煙のなんと美しいことよ。
その様子に味わいを添えているのが、
蛙や兎たちの遊び戯れるユーモラスな姿だ。
お香のゆらぎと重なり合ったときには、
絵が動き出したようにさえ感じられる。
その光景は、見ていて飽きることがない。
この2週間で、なんとなく、家の気が丸くなったように思うのは、気のせいだろうか。
我ながら良い買い物をしたと、日々、悦に入っている。
かまくらのおと
白河 晃子
(合わせているお香は、白洲邸「武相荘」で求めた白檀)
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